働き方改革による労働時間見直しの影響は?裁量労働制導入前に考えよう

働き方改革によって、労働者の働き方全般が見直されています。裁量労働制は、このような法改正の影響を大きく受けている制度の一つです。

働き方改革では、裁量労働制の適正な運用がテーマの一つになっています。そのため、制度の導入を考えている企業は、裁量労働制の「何が課題とされているのか」「どのように見直しを受けたのか」を知ることが大切です。

以下では、裁量労働制が働き方改革によって受けた影響や、制度の具体的な内容について解説します。

働き方改革により裁量労働制は何か変わるのか

裁量労働制は、みなし労働時間を設定し、実労働時間は労働者の裁量に委ねるという制度です。特に専門性が高く、仕事のやり方や時間配分を労働者に任せた方が効率的な業種や、事業の運営に大きく関わる職種に適用されます。

働き方改革が施行される以前、一部の企業においては裁量労働制が適正化されていないことが問題となっていました。そのような企業では、社員や管理監督者などの労働時間が厳密に管理されておらず、みなし労働時間と実労働時間の間に大きな乖離があったためです。

このような働き方が続くと、長時間労働や社員の健康問題が危惧されます。そのため、事業主には、裁量労働制を適用する従業員や管理監督者の労働時間の状況把握が厳しく求められるようになりました。

そして、裁量労働制の適正な運用を示す動きが始まったのです。

(参照:厚生労働省・労働安全衛生法の改正について

裁量労働制の概念とその対象

裁量労働制とは具体的にどのような制度なのでしょうか。労働時間の考え方や、2つの裁量労働制について解説します。

裁量労働制の労働時間の仕組み

裁量労働制は、みなしの労働時間を設定し、実労働時間を労働者各人の裁量に委ねる制度です。

(参照:東京労働局 労働基準監督署・専門業務型裁量労働制の適正な導入のために

裁量労働制では「1 日に 8 時間」など基本的な労働時間が「みなし」として定められています。しかし、実際の労働時間や出勤時間、退勤時間は、対象となる労働者が柔軟に決めることができます。

ただし、裁量労働制にも時間外労働は適用されます。労働者が 22 時以降の深夜労働や休日出勤を行った場合は、その都度割増賃金が支払われなければなりません。

専門業務型裁量労働制・企画業務型裁量労働制

裁量労働制は、対象となる業種や職種によって「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の 2つに分けられます。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は、厚生労働省が定めた専門性の高い19の業種・職種に適用される制度です。具体的には、弁護士などの士業、研究開発職、ディレクション業務、デザイナー業務などが該当します。

自社で制度を運用する場合、使用者と労働組合または労働者の代表者の間で書面にて労使協定を結ぶ必要があります。

(参照:厚生労働省労働基準局監督課・専門業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制

一方で企画業務型裁量労働制は、「事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う」業務が対象です。

(引用:厚生労働省労働基準局監督課・企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制を運用する条件は、専門業務型裁量労働制よりも厳しく、労使からなる労使委員会を設置して適用の可否や運用ルールを話し合い、委員の 5 分の 4 以上の賛成を得なければなりません。さらには、対象となる労働者の同意も必要です。

裁量労働制を導入するメリット・デメリット

裁量労働制を導入するにあたっては、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
以下では、企業側と労働者側に分けて、詳しく解説します。

企業側のメリット・デメリット

メリット

  • 1.人件費の管理がしやすい

    すべての従業員が勤怠管理をすることになるので、人件費の管理がしやすくなります。

  • 2.生産性の向上

    労働者はみなし労働時間で決められた時間内に業務を完遂しなければならなくなります。思ったよりも時間がかかってしまっても、それは自己責任です。
    そのため、労働者一人ひとりが業務の効率化を意識するようになり、生産性が向上することが期待できます。

デメリット

1.裁量労働制の対象が限定されている

裁量労働制の対象は、専門業務型裁量労働制・企画業務型裁量労働制で対象となる業務をする労働者のみです。すべての従業員が、裁量労働制によって採用できるわけではありません。

2.導入手続きが面倒

労務担当者によって導入手続きをしなければなりません。専門業務型裁量労働制では、就業規則の変更や、労使協定の締結など。企画業務型裁量労働制では、労使委員会を設けて、導入についての決議をする必要があります。

3.労働時間の管理負担

裁量労働制を適用した労働者でも、勤怠管理システムやタイムカードによって勤怠管理をしなければなりません。雇用者の健康管理をする義務が企業にあるためです。

4.一概に残業代削減が可能とは限らない

裁量労働制でも、残業代削減に直結するかは確実ではありません。

労働者側のメリット・デメリット

メリット

1.ワークライフバランスの実現が可能

子育てや家族の介護、趣味、習いごとなど、ワークライフバランスのとれた働き方ができるようになります。退勤時間の目安も自分でつけられるため、プライベートの予定をあらかじめ立てることが可能です。

2.始業・終業時刻にとらわれない

すべて自分の工夫次第で労働時間を調整することができます。効率性を上げることで、1日の労働時間を短縮させることもできるでしょう。

デメリット

1.みなしの労働時間との乖離

裁量労働制では成果が求められます。予定していたみなし労働時間を超えて、業務をしなければならない場合も考えられます。

2.勤務時間のハンドリングが難しい

個人ではなく、グループで進行するプロジェクトもあります。他者と時間を合わせながら業務をすることで、時間管理が難しくなります。

3.他業務も裁量労働に含まれるケース

裁量労働制では規定されてない業務も、みなし労働時間内で対応するケースが考えられます。

裁量労働制を導入するには?

実際に裁量労働制を導入する手順について見ていきましょう。おもに行うことは2つです。

専門業務型裁量労働制を導入するためには、雇用主と労働者側が労使協定を結んで、管轄の労働基準監督署に届け出をします。

また企画業務型裁量労働制は、労使委員会を設置すること。そして5分の4以上の多数決を決議することが条件です。

裁量労働制導入の流れ

専門業務型裁量労働制
以下の事項を定めた労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長へ届出。
  • 対象業務
  • 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間
  • 対象業務の遂行の手段および時間配分等の決定に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと
  • 対象業務に従事する労働者の健康および福祉を確保するための措置
  • 対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置等
  • 有効期間
  • 対象業務に従事する労働者の健康および福祉を確保するための措置と対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置等を記録し、期間満了まで保存する
企画業務型裁量労働制
労使委員会の設置
以下の事項を労使委員会で決議をし、所轄労働基準監督署長へ届出
  • 対象業務
  • 対象労働者の範囲
  • 対象労働者の労働時間として算定される時間
  • 対象労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康および福祉を確保するための措置
  • 対象労働者からの苦情の処理に関する措置
  • 対象労働者の同意を得なければならないことおよび同意をしなかった労働者に対して解雇・その他不利益な取り扱いをしてはならないこと
決議から6カ月以内に、以下の事項を所轄労働基準監督署長へ報告
    ・対象となる労働者の労働時間の状況
    ・対象となる労働者の健康及び福祉を確保する措置の実施状況
対象となる労働者から同意を得る

(参考:厚生労働省・専門業務型裁量労働制の適正な導入のために
(参考:厚生労働省・「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために

まとめ

働き方改革によって、裁量労働制の問題点を改善する動きが加速しています。各企業には、労働者の「みなし労働時間」と「実労働時間」の間に乖離がないよう、労働時間の厳格な管理が求められるようになったのです。

しかし、一部の専門業種や職種にとっては、裁量労働制を導入することで多くのメリットがもたらされることも事実です。

裁量労働制の利用を検討している企業は、制度の内容や運用方法、メリット・デメリット、導入手順を正しく理解し導入しましょう。